関数まわりの注意点¶
関数の定義については紛らわしい側面があって,微積分やプロットなどを行なう際に問題になることがある. この節で,関連する諸問題について検討してみたい.
Sageで「関数」と呼ばれるべきものを定義する方法は何通りもある:
1. 関数, インデントおよび数え上げ 節で解説されている方法で,Python関数を定義する. こうして定義された関数はプロット可能だが,微分積分演算はできない.
sage: def f(z): return z^2
sage: type(f)
<... 'function'>
sage: f(3)
9
sage: plot(f, 0, 2)
Graphics object consisting of 1 graphics primitive
最終行の書法に注目していただきたい.
これを plot(f(z), 0, 2)
としていたら,エラーになっていたはずである.
z
は f
定義におけるダミー変数であって,定義ブロックの外では未定義になるからだ.
むろん f(z)
のみを実行してもエラーになる.
以下のようにすると切り抜けられるが,どんな場合でも通用するとは限らないので要注意だ(下の第4項を参照).
sage: var('z') # zを変数として定義
z
sage: f(z)
z^2
sage: plot(f(z), 0, 2)
Graphics object consisting of 1 graphics primitive
こうすると f(z)
はシンボリック表現になる.シンボリック表現については,次の項目で解説する.
2. 「呼び出し可能シンボリック表現」(callable symbolic expression)を定義する. これはプロットおよび微分積分演算が可能である.
sage: g(x) = x^2
sage: g # gはxをx^2に送る
x |--> x^2
sage: g(3)
9
sage: Dg = g.derivative(); Dg
x |--> 2*x
sage: Dg(3)
6
sage: type(g)
<type 'sage.symbolic.expression.Expression'>
sage: plot(g, 0, 2)
Graphics object consisting of 1 graphics primitive
g
は呼び出し可能シンボリック表現だが, g(x)
の方はこれに関係はあっても異なる種類のオブジェクトである.
やはりプロットと微積分などが可能なのだが,違っている点もあるので注意を要する.
以下の第5項で具体的に説明する.
sage: g(x)
x^2
sage: type(g(x))
<type 'sage.symbolic.expression.Expression'>
sage: g(x).derivative()
2*x
sage: plot(g(x), 0, 2)
Graphics object consisting of 1 graphics primitive
3. Sageで定義済みの「初等関数」(calculus function)を使う. これらはプロット可能で,ちょっと工夫すると微分積分もできるようになる.
sage: type(sin)
<class 'sage.functions.trig.Function_sin'>
sage: plot(sin, 0, 2)
Graphics object consisting of 1 graphics primitive
sage: type(sin(x))
<type 'sage.symbolic.expression.Expression'>
sage: plot(sin(x), 0, 2)
Graphics object consisting of 1 graphics primitive
そのままでは sin
は微分演算を受けつけない.
少なくとも cos
にはならない.
sage: f = sin
sage: f.derivative()
Traceback (most recent call last):
...
AttributeError: ...
sin
そのままではなく f = sin(x)
とすると微積分を受けつけるようになるが, もっと手堅いのは f(x) = sin(x)
として呼び出し可能シンボリック表現を定義することである.
sage: S(x) = sin(x)
sage: S.derivative()
x |--> cos(x)
まだ注意を要する点が残っているので,説明しておこう:
意図しない評価が起きることがある.
sage: def h(x):
....: if x < 2:
....: return 0
....: else:
....: return x - 2
ここで plot(h(x), 0, 4)
を実行すると,プロットされるのは \(y=x-2\) で,複数行にわたって定義しておいた h
ではない.
原因を考えてみよう.
コマンド plot(h(x), 0, 4)
が実行されると,まず h(x)
が評価されるが, これは x
が関数 h(x)
に突っ込まれ x<2
が評価されることを意味する.
sage: type(x<2)
<type 'sage.symbolic.expression.Expression'>
シンボリック式が評価される際, h
の定義の場合と同じように,その式が明らかに真でないかぎり戻り値は偽になる.
したがって h(x)
は x-2
と評価され,プロットされるのも x-2
になるわけである.
解決策はというと, plot(h(x), 0, 4)
ではなく
sage: plot(h, 0, 4)
Graphics object consisting of 1 graphics primitive
を実行せよ,ということになる.
5. 意図せず関数が定数になってしまう.
sage: f = x
sage: g = f.derivative()
sage: g
1
問題は,例えば g(3)
などと実行するとエラーになって, "ValueError: the number of arguments must be less than or equal to 0."と文句をつけてくることだ.
sage: type(f)
<type 'sage.symbolic.expression.Expression'>
sage: type(g)
<type 'sage.symbolic.expression.Expression'>
g
は関数ではなく定数になっているので,変数を持たないから何も値を受けつけない.
解決策は何通りかある.
f
を最初にシンボリック表式として定義しておく.
sage: f(x) = x # 'f = x'とはしない
sage: g = f.derivative()
sage: g
x |--> 1
sage: g(3)
1
sage: type(g)
<type 'sage.symbolic.expression.Expression'>
または
f
の定義は元のままg
をシンボリック表式として定義する.
sage: f = x
sage: g(x) = f.derivative() # 'g = f.derivative()'とするかわり
sage: g
x |--> 1
sage: g(3)
1
sage: type(g)
<type 'sage.symbolic.expression.Expression'>
または
f
とg
の定義は元のまま,代入すべき変数を特定する.
sage: f = x
sage: g = f.derivative()
sage: g
1
sage: g(x=3) # たんに'g(3)'とはしない
1
おしまいになったが, f = x
と f(x) = x
各々に対する微分の相違点を示す方法がまだあった.
sage: f(x) = x
sage: g = f.derivative()
sage: g.variables() # gに属する変数は?
()
sage: g.arguments() # gに値を送り込むための引数は?
(x,)
sage: f = x
sage: h = f.derivative()
sage: h.variables()
()
sage: h.arguments()
()
ここの例から判るように, h(3)
がエラーになるのは,そもそも h
が引数を受けつけないためである.